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~さわやかに香る風~

~さわやかに香る風~

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    贈り物

      1

 ガオー! ガオー! 起きて! ガオー! 起きろ~! ガオー! ガ…
プチ。
 素早く手を伸ばし、ベッドの脇にある恐竜の目覚まし時計のスイッチを押した。
「ふわぁ~~」
 少年はまだ眠い目をこすりながら、ゆっくりと目を開けた。
「あーあ。今日も雨か」
 カーテンの開けられた窓の外を見て、少年はため息をつく。土砂降りではないが、淡々と降っている雨。
「あー、やだなぁ。学校行きたくないなぁ。…よっこらしょっと」
 この数日間ずっと降り続けている雨にも、ほとほと倦怠してきたとこだ。
 嫌気が差しながらも、少年はまだ出る気のしないベッドから立ち上がった。
「ううっ、さぶっ」
 体をぶるっと震わせる。
 十一月に入ったばかりだが、最近、朝晩の冷え込みがいっそう厳しくなってきている。ついひと月前までは、まだ夏の暑さが残っていて、この先どうなるのだろうと言っていたものだが、この分では、暑さの反動から来るこれからの冷え込みが心配だ。
 少年は再び体を震わせた。
 用を足した後、少年は一階への階段を下りた。
 リビングに降りてくると、少しは高級感の漂う木造四人用テーブルの上に、一枚の紙切れが乗っていた。
「ん?」
 少年はその気になる紙切れを手に取り、その事柄を読んだ。

「たっくんへ。

 ちょっと仕事の都合で三日くらい帰ってこれそうにないんだけど、大丈夫よね?
 冷凍食品はまとめ買いしといたから、お弁当に困ることはないと思うけど、そのほかの事はいつもの棚にお金入れとくから、何とかやりくりしといてくれる?

 あとは、朝一でテレショップの商品が届くと思うんだけど、悪いけど受け取っといて。
 それから、その箱も開けといて。中身はテーブルの上に置いといていいから。でもいじっちゃだめよ?

 それじゃ頑張ってね。たっくんのことだから心配はしてないけど、三日後のお昼までには帰ってくると思うから。 母」

「はぁ、またか」
 思わずため息が漏れる。
 つくづく子ども任せな親で、子としては情けない気持ちになってしまう。
「たっくん」。
 これは少年の愛称。本名は赤崎巧(あかざき たくみ)。単純な愛称だが子どものときから親からこの愛称で呼ばれている。本人としてはそろそろやめてほしいのだが。
 彼は母子家庭の一人っ子で、中学三年生の十五歳。父親は三年前に不慮の事故で他界してしまった。すばらしい父親であっただけに、当時小学生だった巧には荷が重かった。きっと父のことだろう、あんな母親だからあの世でも心配しているに違いない。
 父が亡くなってからというもの、新しい心のよりどころなのか、頼りの母がテレショップにはまるようになってしまったことが、巧にとってはもう一つの重荷となり…、しかし、母は仕
事だけは以前と変わらずこなしてくれている。それが唯一の救いだった。
 テレショップ…。
 そういえば、母さんが今度申し込んだのってどんなのなんだろ?
この間はインチキネックレスだったし。その前は決して高級なんて言えないような包丁だったし。今度はもうちょっとマシなのにしてくれるといいんだけど…。
 巧は最近になってやっと、母のテレショップ嗜好に対してそんなことを考える余裕が出てきた。と、いうより興味が沸いてきていた。
 これも母の影響だろうか。
「朝一っていったって、俺が家を出る前に届けにくるかなぁ…」
 巧が誰もいない玄関に向かってつぶやいていると、
 ピンポーン。
 ピンポーン。
 ピンポーン。
 慌しく何度も連続で押されるチャイムの音が家中に響いた。
「テレショップだ!」
 巧はリビングに戻り、引き出しからハンコを取りつつ声を上げた。
「はーい、すぐ行きます!」
 ボンッ!!!
 玄関に駆け寄り勢いよくドアを開けた…が、思いっきり配達員の顔面にドアが。
「痛って~…」
「す、すいません…」
 慌てて謝る巧。
「テメェ!痛ぇじゃねーかコラ!!さっさとハンコ押しやがれこのガキ!!」
 ひいぃぃぃ!恐い、恐いよこの人。
「い、今押しますっ」
 しかし手が震えてなかなか押せない。
「早くしやがれっ」
 恐る恐る配達員の顔を見ると、真っ赤な顔をしていた。かなり気が立っているようだ。まぁ、当然といえば当然だが。
「はひぃ~」
 なんとか判を押し、もう一度配達員の顔を覗き見ると、さっきの赤みはどこへやら、飛び切りの笑顔がそこにあった。どうやら熱しやすく冷めやすい性格の持ち主らしい。
「こ、これでいいですか?」
 巧が配達員の変貌ぶりに驚きを隠せないまま聞くと、
「あ、良いですよ。いや~でもこういうの好きですよね、君のお母さん」
 と、配達員は突然笑顔で語りかけてきた。
「え?あ~はい~そうなんですよ~もう困っちゃって」
などと適当に返していると、
「いやいやすばらしいですよ!いやね、私も最近ハマってましてね、テレショップに」
「は?」
 あまりの変化と展開に、巧はただ彼を見つめることしかできなかった。
 配達員の目は輝いていた。  
「いやいやすみませんね、君にこんな話してもわかんないよね。でも楽しいよ~テレショップは。この箱を空ける瞬間がたまらなくいい!君も一回やってみるといいよ。それじゃ、まぁそ
ういうことでお届けしましたんで。ありがとう!」
 と、一気にまくしたてられ、配達員はその輝いた目をしたまま赤崎家を後にした。
「…。なんだったんだ?」
 玄関に残された巧は、口をポカンと開けたまま、配達員が家を後にするのを見つめていたが、とりあえずは彼の怒りが治まったことにほっとしていた。
 リビングに商品の入ったダンボール箱を運んだ巧は、とりあえず中身を確かめようとしたが、
「ん?」
 ダンボールに貼られていたピンクのラベルに目が留まった。ラベルにはこう書かれてあった。

「商品番号17
 持ち運び用化粧品箱
              発送元 マジョンナ様」

「母さん、今度はこんなの買ったのか。なんか期待できないなぁ」
 そもそも、期待以上の商品であったことなど一度として無かったのだが。
「でも…誰なんだろ、このマジョンナってのは。いつもの通販の会社の名前じゃないし」
 ラベルに書かれた見慣れない名前に、巧は疑問の目を向けた。
「ま、いっか。早く中身みよっと。どんなのかな~」
 送り主への疑問などすぐに消え、巧は慣れた手つきでガムテープをはがし始めた。
 ビリビリ。
 ビーーーーーー。
 バリッ。
 ビビビーーー。
「何だよこれ。ちょっと頑丈すぎやしないか?」
 妙に頑丈に包装された商品である。はがしてもはがしても中身が出てこない。
 その後、頑丈に巻かれたガムテープをはがし続けた結果、元々のダンボールの大きさよりかなり小さい箱が出てきた。
「やっと出てきたか。でもこれ、もうどう見ても化粧品箱が入ってる大きさの箱じゃない気がするんだけど…これ運送業者が間違ったんじゃないか?」
 十センチ四方のその箱。厚さも薄く、中に入っているものもあまり重みを感じなかった。
「う~ん、どうしよっかな。なんか開けてはいけないような気がするけど…。でも気になるなぁ」
 しばらく箱を手にとって考えた巧だったが、
「でも…気になるし。よし、開けよ!」
 思い起こして箱からそのモノを取り出した。それは…
「…鏡?」
 それは木製の古ぼけた手鏡だった。木目には目立つ傷がいくつか入っており、茶色であったろう色もはがれている。
 しかし、ガラスの面の部分だけは磨かれたようにきれいで、鮮明に巧の顔を映し出していた。
「あれ?」
 鏡に映った自分の顔に違和感を感じた巧は眉をしかめてみたが、鏡の向こうの巧はそんな顔などしていない。
「これって…!」
 さすがに恐怖を覚え、鏡から手を離そうとしたその時。
 鏡の中からにょきにょきと手が。
「ぎゃああああああああああ!!!」
 巧は混乱して叫びまくり、もう手から鏡は離れていたが、鏡は床におちることはなく浮いている。
 さらに鏡から出てきた手は伸び、巧の腕をつかんだ。
「うわっ!うわっ!!ぎゃああああああ!!」
 我を失ってつかまれた腕を振り払おうと暴れだす巧。
 すると。
「痛い痛い痛い痛いって!!」
「…へ?」
 突然のどこからかの叫びに、巧のパニックはすぐに解かれた。ただ、その代わりに多大な恐怖が彼を襲った。なぜならその声は、自分のものとしか考えられないほど似ていたからだ。
「痛いって!そんなに引っ張ったら」
 再びどこからか自分の声が。
「ま、まさか…!?」
 心臓のドクン、ドクンという音が外に聞こえそうなくらいに大きな音を出し、動いている。そしてさらにその鼓動を早めつつ、巧は恐る恐る鏡の方へと視線を移した。
「おはよう。もうひとりのボク」
            
        
        2

「あれ?」
 バサッ。急いで毛布をはぐ。
 巧が目を開けた先は、自分の部屋の天井だった。
 起き上がってみると、そこはベッドの上。枕もとには恐竜の目覚まし時計。無造作に教科書の積まれた学習机。いつもと何も変わりはなかった。
「なんだ」
 ベッドから立ち上がり、大きく背伸びをする。
「ははは…夢か。にしてもリアルな夢だったなぁ」
 夢と認識してしまえば、今までの恐怖など軽く飛んでいってしまった。体の方はまだなんとなくだるいが。
 しかし、その飛んでいったはずの恐怖は、再び巧の元へ舞い戻ってくるのであった。
「どう?調子は」
「へ?」
 声を聞いたとたん、巧はゾクゾクと寒気を感じ、全身に鳥肌がたった。
「まったく。迷惑なもんだよ。いきなり倒れちゃうんだから」
 すでに視界にはその声の主が映っていたが、改めてその主の顔を確認する。
 そう。
 その視線の先には、先ほど夢の中の悪魔と認識したばかりのもう一人の自分が、手にカップを持ち、近づいてきていたのである。
 目も鼻も口も、髪型も背丈も、声まで…すべてが、今まで鏡などの媒介を通してしか見たことのない、自分そのものが―しかし自分とは別のもの―が、目の前に立っていた。
「ほんとにまいっちゃったよ。まさか倒れちゃうなんてね。でも…まぁ、無理もないか。何も知らない君にとっては。ボクは鏡から出てきたんだしね。はい、これ」
 少年はそう言いながら、手に持っている湯気のたったカップを巧に差し出した。
「ぁ…」
 対する巧はカップなど目に入っておらず、ただただ目の前の自分そっくりの少年を見て、驚きの表情を見せている。
「大丈夫だよ。中身はただのお茶だよ。変なものは入っちゃいない」
 巧はしばらく少年を見つめていたが、ふと我に返って、再び倒れそうになるのを耐えながら、震えた声で叫んだ。
「な、なんなんだよ、お前は!なんで俺が喋ってんだよ!いやなんで俺があんたなんだよ!いやそうじゃなくて!…あ~何言ってるか意味わかんないじゃないか!この化け物っ!!」
 巧がビビりまくり、混乱しているのを見て、少年はフッと笑った。
「ハハハ…まぁまぁ、とりあえず落ち着いてくれよ。ボクが化け物?やめてくれよ、そういう扱いをするのは。ボクは列記とした一人の人間。君とは別物だよ。化け物…なんて、それは君から見たらに限ったことだと思うけどね」
「え?」
「他人から見たら、ボクは君そのもの。ボクのことを化け物というのなら、イコール君も化け物ということさ」
「……」
 巧がわけがわからず黙っていると、少年は再びフッと笑った。
「正確に言えば、ボクは君とは別物であってそうではないんだけどね」
「??」
「ま、今はとりあえずこれでも飲んで落ち着きなよ」
 少年はなおも黙っている巧に再びカップを差し出す。巧はそれを受け取りつつ少年を睨みつけた。
「…なんか変なのが入ってるんじゃないだろうな…?」
「さっき聞いてなかったの?何もやましいものなんか入っちゃいないよ。だいたいボクがそんなことをするような人間に見える?」
「見える」
「ハハハ…ってことは、イコール君もそう見える、ってことだね」
「…ムカつくな~、そういう態度。いらないよ、そんなお茶」
 カップを少年に押し返す。
「態度悪いのはお互い様じゃないかな~。せっかく入れてきてやったのにさ。…じゃあ、これは僕がいただくよ」
 少年は長い口論で冷めてしまったお茶を、巧に睨まれているのも気にせず、口に運んだ。
 そのまま、なぜか沈黙の時が訪れた。
 少年がお茶をのどに通す音がはっきりと聞き取れるほどに、先ほどとは打って変わって静かになった。
「あの…さ」
 しばらくして、少年がお茶を飲み終えたのを確かめると、巧はそれまで続いていた沈黙を裂いた。
「なに?」
「一つ、聞きたいんだけど」
「どうぞ。そりゃ聞きたいことも色々とあるだろうからね」
 少年はそう答えると、巧の机にカップを置き、傍の椅子に腰掛けた。
「何でここにきたわけ?っていうか、どうやってここにきたんだよ」
「…一つじゃないじゃん。まぁ、いいか。ようやくボクを別のものとして見てくれるようになったみたいだし?答えてあげるよ」
「いや、別にそういう風にっていうか…あ~いいや、とにかく教えて」
「おっけー。君が理解できるかどうかは別だけどね」
 少年はそう言うと、少し表情を硬くして、再び語り始めた。
「ボクは、向こうの世界…って言ってもわからないか。とにかく鏡の向こうにもう一つの世界があるって思ってもらえればいいんだけど。そこで…」
「ちょっと待った。なんだよ、それ。もう一つの世界って?ゲームじゃあるまいし」
「今それを詳しく言ってると君が混乱するだけだよ。とりあえずはゲームのように思っててもらえれば都合がいいし。それで…」
「なんだよ、都合って!」
「いいから今はちょっと黙っといてくれる?質問を増やすのはボクの話を聞いてからにしてよ。ボクだって初めてこっちの世界に来て、君に聞きたいことはたくさんあるんだ!」
「…わかったよ。ちゃんと聞くから」
 突然の少年のまくし立てに、巧は納得がいかないながらも口を閉ざした。
「ありがとう、それでいいんだ。ボクも整理しながら話すから、ちゃんと聞いてよ?」
 そして、少年は巧には理解しがたい、それこそゲームの中でのような話を始めるのだった。
 
巧は少年としっかりと向き合って話を聞く体勢をとった。はたからみれば不自然極まりない光景ではあるが。
 巧の目を見て確認すると、少年は口を開いた。
「えっと、どこまで話したんだっけ?」
「もう一つの世界が何たら…って話だったかな」
「そうそう。ボクは向こうの鏡の世界から抜け出した、ある女を追ってきたんだ」
「ある女?」
「うん。彼女の名前はマジョンナ。…普通は、ボクと君みたいに、向こうの世界とこっちの世界、両方に同じ容姿をした人物が存在してるんだけどさ、…そのマジョンナって女は、なぜか向こうの世界にしかいない、数奇な存在なんだ」
「ふ~ん」
 少年の語る話を理解しきれてはいない巧だったが、その話のうちの一つの言葉が頭に引っかかった。
「…マジョンナ?マジョンナって確か…」
「なに?」
 少年が聞き返したが、巧はそれには耳を傾けず、突然一階への階段をドタドタと下りていった。
「なんだ?いきなり…」
 残された少年もわけがわからないまま、とりあえず巧の後を追って階段を下りた。

「やっぱり!これだよ!マジョンナって書いてある!!」
「なんだって!?」
 少年が階段を下りたその先には、リビングにて鏡を取り出した後のダンボールに貼り付けてあった、ピンクのラベルを注視している巧の姿があった。
「ほら、これ見てよ」
 巧がラベルを指差しして見るように促すと、少年はダンボールに貼られていたそのラベルをビリッと剥ぎ取って見た。
「…これは!!」
「なんだよ、何もそんなに急いで見なくても…」
「このダンボールの中に、例の鏡が入ってたんだよね?」
 少年には巧のグチなど耳に入っておらず、今度はダンボールの方を丹念にチェックし始めた。
「そうだけど…鏡はガムテープとビニールで頑丈に包装された中にあったもう一つの小さい箱に入ってたんだ…って、おい、人の話…」
「やっぱりそうか。…だとしたら、ああ…間違いなくマジョンナはこっちの世界にいる」
「…聞けよ、人の話を」
 ラベルを見るなり自分の世界に入ってしまっている少年を見て、巧は苦笑した。何しろそうしているのは自分そのものなのだから。
「ところでさ、これ何?」
 少年はなおもペースを崩さず巧に聞いてきた。
「なんだよ、今度は」
 苦笑していたものの、その原因が自分と同じ姿の奴だと考えると、少しずつイライラの気分も混じってくる。
 少年はコーヒー豆が入っている容器と同じくらいの大きさのビンを振りながら巧の返答を待っている。
「ん?なんだよそのビン。また何か家の物勝手にあさっただろ」
 巧が責めると、少年はビンを振るのをやめて巧を睨んだ。
「あのさー、なんか怒ってない?」
「はぁ?何で俺が怒んなきゃなんないんだよ」
 突然の指摘にイライラが増す巧。
「ほらね、怒ってる」
「だから別に怒ってないって」
「…まぁ、それならいいけどさ。急なことで話もわからないだろうし、面白くない気持ちもわかるけど。さっきも約束しただろ?ちゃんと話を聞くって。とりあえずは今は我慢してボクに
合わせてくれないかな?ボクには早く終わらせなきゃならない仕事があるんだ。ひと段落したら君の話も聞く。それじゃダメかい?」
「い、いや、ダメじゃないけど…」
「そうか、よかった。それでさ」
「……」
 少年の突然の発言とそのリズムに、巧は反論する気にはなれなかった。
「どうかした?」
 少年はそんな巧を不思議そうに見る。
「別に。ただ俺は怒ってないから」
 巧の返答に、少年はニコッと笑顔になり、話を続けた。
「おっけー。じゃあこの話はこれでおしまい。で、本題に戻るけど。このビンって何が入ってんの?」
 …。ま、いっか。自分に腹を立てても仕方がないと、巧は少年の話を聞くことに専念することにした。
「コーヒー豆でも入ってんじゃないの?」
「でもさ、これあのダンボールの中に入ってたんだけど」
「え?」
 よく見ると、ビンには黒い包装がしてあり、中に何が入っているのか確認できない。
「そんなに重くはないし、こうやって振ってみると…なんか一個だけ入ってる感じなんだよね」
「おい、あんまり振らない方が…壊れたらどうするんだよ」
 そう言って巧が少年からビンを取り上げようとしたその時。
「誰やこんな中に入れたんは!!早よだせやボケーー!!」
 どこからか叫ぶ声が。
「今なんか言った?」
 巧は寒気を感じながらも、少年の目を見た。
 しかし、少年は首を横に振り、答える代わりにビンを指差した。
「ビンがどうしたんだよ」
「…たぶん、この中からだよ、今の声」
「はぁ?そんなわけないじゃん、ちょっと貸してよ」
 巧は少年からビンを受け取り、少年と同じように振ってみた。壊れると(?)いけないので今度はやさしく。
 すると。
「誰やアホ~!やめろ~目が回る~」
 再び声が。しかし今度は明らかにビンの中から声が確認できる。
「…すんごく嫌な予感がするんだけど」
 巧は寒気だけでなく、鳥肌が全身に立っていた。倒れる前に感じたあの感覚がよみがえってくる。
「何してんの?早く」
少年は顎でビンを開けろと指図する。
「え?」
「え、じゃなくて、早く開けてよ、それ。わかってるんだろ?声の元はそこなんだから」
「いや、そんなことはわかってるけど、でも…何が入ってるかわかんないし、むやみに開けたら…」
 青ざめた顔の巧の様子に、少年はニヤリと笑い、巧を睨んだ。
「はは~ん、君、恐いんだ?たかがビンを開けるのが?声が聞こえただけなのに?そんなの子どもでもできるのに」
「な、なんだよそれ。別に恐いとかじゃなくて、開けたらどうなるかわかんないし危険っていう意味で…」
「つべこべ言わずに開けてよ」
 少年の鋭い切り返しに巧は動揺したのか、
「くそー信じてないな…いいや、開けりゃいいんだろ、開けりゃ。どうなっても知らないからな!」
 そう言いつつもブルブルと手は震えていたが、勢いでビンの蓋を開けた。
 クルッ、クルッ、クルッ。
 カラカラカラーン。
 勢いで蓋はどこかへ飛んでいった。
「ふぅ。開けたよ。ほら見…ぎゃあああああああ!!」
 蓋を開けて中身を見ようとした瞬間、何かがビンの中から巧の前を飛び出していった。
「ぎゃあああああああ!!」
 今度は少年の方が叫びだした。
「出た!出た!!やっぱ出た~!!」
 二人でパニックしながらリビングの中を走りまわっていると、何か生温かいものが巧の足に触れた。
「ぎゃー!ぎゃー!!なんか足に触った~!!」
 今度はさすがに気絶ほどしないが、鏡の時と同じような状況。
「あ、あ…それ…」
 少年が巧の足の付近を見てそういった時、その足に触れていた「何か」が、突然声を発した。
「何やギャーギャーうるさいわ!叫びたいのはこっちの方や!」
「…え?」
 巧は恐る恐る足元のそれを見ると、ついに白目をむいて倒れ始めた。
「おっと!」
 そこを倒れる前に少年が受け止めた。
「ハ…ハハ…、喋ってるよ…こりゃやっぱ夢だ。ハハハ…」 
巧は受け止められながら口をパクパクさせ、半分壊れていた。
「まさか…。動物が喋るなんて…」
 少年も目を大きく見開きながら、それを凝視している。
そう。
 巧の足元で声を発した、その声の主は…、なんとネズミであった。しかも、お洋服つきの。


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